フィールド・レポート 2020-21

「地域子ども学」フィールドワーク・レポート
むつこ先生が会いに行く―みやぎから海外まで2020
天童睦子 宮城学院女子大学・教授(女性学)

むつ子先生が会いに行く④「地域子ども学」フィールドワーク 北海道 2021年10月

SDGsとまちづくり―地域子ども学の視点から
天童睦子(宮城学院女子大学・一般教育部・教授)

持続可能な未来への想像力

持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)は、2015年9月の国連サミットで採択された2030年までの世界共通の目標です。貧困、教育、ジェンダー平等、安全な水など、持続可能な社会実現のための17の目標を掲げて、国、地域、一人ひとりの参加と行動を呼びかけるものです1)。まちづくり、地域のあり方、私たちの生き方、暮らしを考えるうえで、持続可能性を身近な課題としてとらえることは重要です。

国連SDGs(2030アジェンダ)、その採択に至るまでの経緯をみると、1972年に「かけがえのない地球」をテーマとした国連人間環境会議で「ストックホルム宣言」を採択、同年、ローマクラブによる「成長の限界」の報告で、70年代に、急速な経済成長や人口増加によって生じる環境破壊、食料不足、資源の有限性といった環境問題が注目されはじめました。1992年には環境と開発に関する国連会議(地球サミット)がブラジルで開催され、「環境と開発に関するリオ宣言」「アジェンダ21」(21世紀に向けての人類の取り組むべき課題)が採択されました。このころ、生物多様性条約(1993年)、気候変動枠組条約(1994年)の採択と、地球規模での自然、環境への関心が高まっていきます。1997年第3回気候変動枠組条約英訳国会議(COP)において「京都議定書」が採択、そして2000年には国連ミレニアム宣言が出され、ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals)が設定されました2)

MDGsで2015年までに達成すべき8つの目標として掲げられたのは、①極度の貧困と飢餓の撲滅、②普遍的な初等教育の達成、③ジェンダー平等の推進と女性の地位向上、④乳幼児死亡率の削減、⑤妊産婦の健康状態の改善、⑥HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延防止、⑦環境の持続可能性を確保、そして⑧開発のためのグローバルなパートナーシップの推進です。MDGsでは女性のリプロダクティブ・ヘルス、教育、人権に深くかかわる項目が挙げられています3)

途上国での環境・開発問題の深刻さが明るみに出るにつれ、2002年「持続可能な開発に関するヨハネスブルグ宣言」など、さまざまな会議が開催され、開発・成長、都市のスラム化、保健・衛生、環境といった複合的課題が浮上しました。2012年6月、リオ+20の「国連持続可能な開発会議」が開催、グリーンエコノミー(経済)とSDGsが主要課題となりました。なお、2012年にSDGsはコロンビア、グァテマラにより初めに提案され、スラム居住者の生活改善、安全な水、衛生施設を利用できない人の半減、生物多様性の損失の減少などを含めた、建設的議論が進められたといいます4)

2015年9月、国連SDGsは、190を超える国連加盟国により、採択・可決され、2030アジェンダ・「持続可能な開発目標SDGs」がスタートしました。

持続可能な地域づくり、未来をどのように各地の事情や特色にあわせて実現するか、またその地に生活する子ども、女性、高齢者を含めた、多様な人々のニーズをどう汲み取り、より良い生活、生き方を実現するか。SDGsの誰一人取り残さないという理念をふまえて、自然環境、社会の在り方をともに考えること、グローバルとローカルをつなぎながら生活環境を見直し、とらえ直すこと、このテーマは私たちの想像力と創造性をひらくきっかけをもたらしてくれます。

未来のまちのスタンダードを考える

本稿では、まちづくりモデルの一例として、北海道の中央部に位置する東川町の事例に触れます。この町に興味をもったのは、水、そして過疎でも過密でもないまちづくりを志向し、ブランド化からスタイルへという町のコンセプトでした。

「神々の遊ぶ庭」(アイヌ名 カムイミンタラ)とも呼ばれる大雪山を仰ぐこの地には、地下浸透した水で暮らす生活が保たれています。町のアピールは、上水道普及率ゼロ、国道ゼロ、鉄道ゼロと「ないこと」に価値を見いだすという発想の転換です5)。大震災を経験した宮城ではまさに災害時の水の確保と供給が深刻な問題であったことを思うと、天然水で暮らせる町、なんとも豊かな生活スタイルです。

東川町は、人口のほどよい増加傾向をもち、地域活性化の成功例として視察団が引きも切らないことで知られていますが、活性化を目指す「まちづくり」の契機となったのは「一村一品運動」の一つで町が手掛けた「写真の町」宣言(1985年)だったそうです。外部のコンサルティング会社からの提案を採用して始まった「写真の町」は、数年後にその会社が倒産してしまい、自治体や住民が自ら動くしかなくなり、そこから人脈、ネットワークが育まれたといいます。フィールドワークで話をうかがった担当者の方々も、ソフトで温かく、仕事に誇りをもっておられることが伝わってきました。

『東川スタイル‐人口8000人のまちが共創する未来の価値基準』(2016)と題された著作では、「役場の職員らしくない」脱公務員的発想があると記されています。町役場には「3つの〝ない″はない」という指針、すなわち1)予算がない、2)前例がない、3)他でやっていない、を言い訳にしないまちづくりがあるわけです6)

ブランド化からスタイルへ:生活環境と文化

旭川から15キロほどにある東川町は、明治28(1895)年、開拓の鍬がおろされ、水田農業を基幹産業として発展してきました。この町を有名にした「写真甲子園」(全国高等学校写真選手権大会)は、写真そのものの活動だけでなく、絵になる風景、生活、都市間交流の実践へと広がり、町の住民や団体、組織、コミュニティが自ら「町の風景」をつくってきたといいます7)。「一村一品」のブランド化が、やがてその町らしさという生活・環境スタイルへと定着していった好事例といえましょう。

「適疎」なまちづくりを標榜して人口のほどよい増減を意識し、LifeとWorkのバランスのとれた「小さな経済」を回し、自然環境を活かしたライフスタイルで暮らしと地域をつくるといった発想は、2020年以降のコロナ禍を生きる我々には、リモートワークの導入を経て、居住空間と業務空間の再考のヒントになるかもしれません。

子育て環境と子ども

文献資料によれば、東川町開拓120年という節目の2014年、東川小学校と地域交流センターが新築され、この施設には著名な彫刻家の作品が配置されているほか、町の主産業である木工クラフト作家の芸術作品も多数配置されているそうです8)。文化的なものが身近にあり、本物に触れる子ども期、競争原理とは異なる文化資本の伝達と見るべきでしょうか。

東川小学校のオープン教室(教室にドアを設けない開放的設計)、すぐ横の田んぼの配置と、農業体験、自然体験といった地域との出会いから、学校教育と社会教育の連携が図られているそうです。

幼児教育については、2002年既存の町立保育所4つ(常設に2か所、季節2か所)と、一つの町立幼稚園を統廃合した幼児センターが、地域子育て支援センターを併設する形で開園し、2003年からは「幼保一元化施設」として特区認定を受けたとのこと。『東川ものがたり』(2016)に記載された内容によれば、地域イベントや行事に園児が参加し活躍する場が多く、それが町民意識の情操につながっていくと考えられていること、子どもが体験(遊び)を通して、共同性、社会性、自立性、創造性を培い、生きる力を育成する保育が目指されています9)

自然が豊かな町には、さらに子どもと過ごせる公共の場が充実しており、公園20か所ほど、子育て関連の公共施設は10か所、医療面での諸助成制度が設けられているといいます10)

多様化する保育ニーズ、保育者の職場環境、保育目標など、幼児教育の現場で、どのような独自の特徴があるのか、また、子どもと家族の生活環境、文化環境、移住家族の育児意識の変化など、今後継続して調べてみたい課題がたくさんあります。その検討と応用を通して、どのような人権尊重の地域づくりが可能か、ともに考える契機としていきたいと思います。

〔謝辞〕インタビューに答えてくださった東川町の関係者の皆様に御礼申し上げます。
*付記 本調査は2021年度宮城学院女子大学 特別共同研究の助成を受けています。

注・参考文献

1)SDGs(エス・ディー・ジーズ)とは? 17の目標ごとの説明、事実と数字 | 国連広報センター(unic.or.jp)
https://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/31737 2021,10,14閲覧
2)『SDGsとは何か?世界を変える17のSDGs目標』安藤顕、三和書籍、2019
3)MDGsの8つの目標 | 国連広報センター(unic.or.jp)
https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/global_action/mdgs 2021,10,14閲覧
4)『SDGsとは何か?世界を変える17のSDGs目標』,p.18.
5)東川町長 松岡市郎氏インタビュー,『水の文化』(ミツカン水の文化デンター機関誌)第67号,2021,pp.30-31.
6)『東川スタイル‐人口8000人のまちが共創する未来の価値基準』玉村雅敏・小島敏明編著、吉田真緒著、産学社、2016 および資料「「適疎」なまちづくりと東川スタイル」(2021年10月)
7)『東川スタイル』pp.8-11,23-25.
8)『東川ものがたり―町の「人」があなたを魅了する』写真文化首都 「写真の町」東川町編 新評論,2016,pp.154-163.
9)『東川ものがたり』pp.164-179.
10)『東川スタイル』p.98.

北海道・東川町 複合交流施設せんとぴゅあⅡ(図書館機能併設) 町史の資料を見る

北海道 東川町の風景 奥 幼児センター・子育て支援センター

むつこ先生が会いに行く③海外編

2020年初頭、ヨーテボリ大学(スウェーデン)のイングリッド・プラムリング・サミュエルソン(Ingrid Pramling Samuelsson)教授へのインタビュー。同教授は幼児教育分野の世界的権威で、、元OMEP総裁。日本での講演を依頼し、すぐに「グローバル市民になること―子ども中心の持続可能な開発のための就学前教育」でシンポジウムを企画することが決まった。できる人は仕事が速い。2020年秋に来日し仙台の宮城学院女子大学で講演いただくことを約束した。が、その数週間後、Covid-19の世界的感染の拡大。国際シンポジウムは2020年10月8日、オンライン開催となった。参加者300名超。シンポジウム内容は〈地域子ども学〉HPに掲載。

左:天童睦子教授 右:イングリッド・プラムリング・サミュエルソン(Ingrid Pramling Samuelsson)教授

イングリッド・プラムリング・サミュエルソン(Ingrid Pramling Samuelsson)教授

むつこ先生が会いに行く②

2020年12月14日(月)2020年度第6回公開研究会「SDGsとみやぎの女性-地域子ども学と持続可能性の視点から-」を開催した。

宮城県内のNPOで活躍されている方々を招き、「SDGsとみやぎの女性」をテーマにお話しいただいた。当日は講師ゲストに石本めぐみさん(特定非営利活動法人 ウィメンズアイ代表理事)、話題提供として兼子佳恵さん(特定非営利活動法人石巻復興支援ネットワーク代表理事)、天童睦子教授(本学一般教育部)がコメンテーターを務めた。

地域で活躍の場を広げている方の話は、学生たちへの力強いエールとなる。映像配信、学生視聴200名超(新型コロナ感染症対策のためオンライン開催)。

左から石本めぐみさん、兼子佳恵さん、宗片恵美子さん(NPO法人イコールネット仙台代表理事)、天童睦子教授

左:石本めぐみさん 右:兼子佳恵さん

むつこ先生が会いに行く①宮城県石巻市のNPO法人「やっぺす」編
笑顔がすてきな事務局メンバーにインタビュー

特定非営利活動法人「石巻復興支援ネットワーク」(やっぺす)は、子育て支援の地域拠点の一つとして、「ママこども食堂」を2017年より継続し、市民参加型の活動を行っている。フィールド調査では、「ママこども食堂」の利用者および支援にあたっている保育士の方、事務局次長柏原としこ氏にインタビュー調査を行い、保育士のアドバイザーの立場からの知見、利用者(母親)からみた活動の利点などをうかがうことができた。コロナ禍にあって、子どもと親の一回の参加人数を制限しつつ実施されていた。また、石巻市の施設で行われている「いっしょるーむ」(親子が自由に集える場)の運営状況を視察し、事務局長高橋洋祐氏より活動状況、父親の育児へのかかわりについてうかがった。やっぺすメンバーのアイディアと人柄にはいつも勇気をもらう。(感染症対策に十分留意しインタビューを行った。)

左:天童 右:やっぺす代表 兼子さん

やっぺす代表 兼子佳恵さんと事務局の皆さん

石巻駅前「いっしょるーむ」見学

石巻駅前「いっしょるーむ」で、やっぺす事務局長 高橋洋祐さんにインタビュー

コペンハーゲンBLOX、DAC訪問

  • コペンハーゲン2020自転車の街

  • コペンハーゲンBLOX

  • コペンハーゲンBLOXに集う子どもたち

  • デンマーク建築センター

  • 子どものための街はみんなの街

*本フィールド・レポートは宮城学院女子大学2018-2020年度研究ブランディング事業・地域子ども学研究センターの助力をいただいた。